夕暮れの光に照らされた男子寮の屋上に、二つの人影が落ちている。
 一人は茜色に染まる空を見上げ、長く細い溜息を。
 一人は柵にもたれかかり、物憂げに睫毛を伏せた。
「……どうする?」
 綺麗な髪をぞんざいにかきあげながら、庵條瑠衣が呟く。
 独り言のようなそれを受け、帯刀凛太郎は背後にある柵により深く身を預けた。
「どうしたもんかな……」
 星フェス委員の中でも年嵩となる3年生組の二人は、夕闇の中で互いに力なく笑った。
「今まで色々あったけどさ……今回はまた別格だ」
 凛太郎の言葉に、瑠衣は空を見たまま小さく「うん」と返す。
 星芸に入学してから――特に星フェス委員になってからは――二人とも仲間と共に多くの壁を乗り越えてきた。
 しかしその二人でさえ、今直面している問題に適切な解答を見つけることが出来ないでいる。
「情けねえな」
 自嘲する凛太郎の肩を、瑠衣が労わるように軽く叩く。
「リンリンはいくつか断ったんでしょ? 情けないのはむしろオレ。言われるがままで……」
「悲しむ顔を見たくなかったんだろ?」
「女の子には、花のように笑ってて欲しいからさ」
「お前らしいや」
 瑠衣と凛太郎は顔を見合わせ、くすりと笑った。その間をひゅうと冷たい風が駆け抜ける。
「寒くなってきたね」
「ああ」
「みんなの気持ちは、あったかいんだけどね……」
「……熱過ぎるほどに、な」
 共に多くの時間を過ごしてきた寮の部屋を思い浮かべ、二人は大きな溜息をつく。
「部屋に戻りたいね……」
「戻れるものなら、そうしてる……」
 ――今日は想いを告げる特別な日。
 部屋の入口ギリギリまで積まれたチョコレートの山を思い出し、瑠衣と凛太郎は揃って「あ~」と情けない声を上げた。


続きは2017年2月10日(金)発売の電撃Girl'sStyle3月号で!
   

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